「わたし…ほんとうは、ここにいちゃいけない人間なんでしょう?」
椎子さんはそう言ってとても優しく微笑んだ。
「…ごめんね。でも、もうすこしだけそばにおいてほしいの…」

彼女は僕に話してくれた。
事故にあったとき、椎子さんのおなかの中にいた小さな命のことを。
産まれることのできなかった、僕らの赤ちゃんのことを。

「わたしは、この大切な忘れ物を届けるために
 戻ってきたんだよね…………」

それから僕達は、二人でたくさんの時間を過ごした。
好きなDVDを見たり、音楽を聞いたり、
おいしいものを食べたり、散歩をしたり。
時にはちいさな喧嘩もして、うっかり限られた時を
むだにしてしまったり。

だって…さよならを言うために、一年は長すぎるから。

 

僕らの赤ちゃんが産まれた あたたかな春の日に
椎子さんは しずかに瞼を閉じて

そのまま、空へ帰って行きました

 

+マエ+ +モドル+ +ツギ+

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